フトアゴヒゲトカゲの頭の上を見て、「左右の目のほかにも目があるの?」と不思議に思ったことはないでしょうか。頭頂部にある「頭頂眼(とうちょうがん)」は、光を受け取る小さな感覚器で、「第三の目」とも呼ばれます。
ただし、左右の目と同じように景色を見ているわけではありません。光を感じることと、物の形を像として捉えることは別の働きです。頭頂眼の構造から光の感知をたどると、この違いが見えてきます。
頭頂眼は、頭の上にある小さな光の受容器
頭頂眼は、頭の上側の中央付近にある器官です。トカゲ類では、頭の鱗の一部が周囲と異なる小さな斑点として見えることがあります。外から見える部分は器官の位置を知る手がかりで、頭頂眼の内部には光を受け取る組織があります。
トカゲ類の頭頂眼の基本構造には、レンズと、光を感じる細胞を含む簡略な網膜があります。頭蓋骨の上側にある頭頂孔という開口部に位置し、頭頂神経を通じて脳とつながっています。
また、頭頂眼は、脳の深い位置にある「松果体(しょうかたい)」とともに、松果体複合体と呼ばれるしくみを構成します。頭の表面近くで光を受け取る頭頂眼と、神経内分泌の働きを持つ松果体は、関係の深い別々の器官です。

左右の目とは、似た部品を持っていても役割が違う
レンズや網膜があると聞くと、小さな目でも同じ景色が見えるように思えるかもしれません。しかし、頭頂眼は物の形を像として捉える目ではなく、入ってくる光の情報を受け取る器官です。
| 比べる点 | 左右の目 | 頭頂眼 |
|---|---|---|
| 位置 | 頭の左右 | 頭の上側の中央付近 |
| 構造 | レンズや網膜を持つ | レンズと簡略な網膜を持つ |
| 物の形を見る働き | 像を捉える視覚を担う | 左右の目のような像をつくらない |
| 光の受け取り方 | 網膜の視細胞で光を受け取る | 頭頂眼の光受容細胞で光を受け取る。波長に応じた反応が調べられている |
たとえば、上から影がかかれば、届く光は変わります。ただし、光の変化を検出できることと、その影が手なのか、鳥なのかを見分けることは同じではありません。「第三の目」という呼び名から、頭頂眼が上空の景色を見ていると想像しないことが大切です。
光の変化は、感光色素と細胞の反応で捉える
光を受け取ると、細胞の電気的な状態が変わる
頭頂眼の光受容細胞には、光を受け取る感光色素があります。その構成要素のひとつが「オプシン」というタンパク質です。光を受けた感光色素が細胞内の反応を起こし、細胞の電気的な状態が変化することで、光が信号へと変わります。
2006年の研究では、フトアゴヒゲトカゲとは別種のトカゲ(学名:Uta stansburiana)の頭頂眼で、同じ光受容細胞に2種類のオプシンが見つかりました。青い光に反応するピノプシンと、緑の光に反応するパリエトプシンです。
この細胞には、青い光と緑の光に対して、電気的な状態を互いに逆方向へ変える反応があります。この種の頭頂眼には、単に「明るいか、暗いか」の二択にとどまらず、光にどの波長が含まれているかを捉えるしくみもあります。ただし、これは人のように色のついた景色を見ることを示したものではありません。
感光色素の組み合わせは、トカゲの種によって異なる
2012年のグリーンイグアナの研究では、紫外線に反応するパラピノプシンと、緑の光に反応するパリエトプシンが、同じ光受容細胞に存在することが示されました。青と緑を受け取る組み合わせだけが、頭頂眼の唯一のしくみではありません。
こうした研究は、頭頂眼が光を信号へ変える過程を理解する手がかりになります。一方、フトアゴヒゲトカゲの頭頂眼にも同じ感光色素が同じ組み合わせで働く、とそのまま当てはめることはできません。
フトアゴヒゲトカゲでは、光の波長と行動の関係が調べられている
フトアゴヒゲトカゲ自身を対象とした研究にも、頭頂眼へ届く光を変えた実験があります。2020年に公表された研究では、人工的な極低周波の電磁場にさらしたときの、尾を持ち上げる行動を指標にしました。
頭頂眼の上に、580ナノメートルより短い波長の光を遮るフィルターを付けた条件では、電磁場にさらした群と対照群の間で、尾上げの増加に有意な差はありませんでした。一方、380ナノメートルより短い波長だけを遮るフィルターでは、電磁場にさらした群で尾上げが増えました。ナノメートルは、光の波長を表す単位です。
この結果は、その実験で見られる電磁場への行動反応に、頭頂眼へ届く光の波長が関わる可能性を示します。著者は、580ナノメートルより短い波長の光が、光に依存する磁気感受性を働かせるために必要だと解釈しています。
ただし、この実験は、頭頂眼の細胞がそれぞれの波長へどれほど敏感に反応するかを直接測ったものではありません。「580ナノメートルが頭頂眼で感じられる光の限界」という意味でも、自然の中で頭頂眼を使って方角を選ぶことを示した実験でもありません。フトアゴヒゲトカゲで得られた結果は、この条件での光と行動の関係として捉えられます。
光の情報は体の調節にも関わるが、働きの全体像はまだ途中
頭頂眼で受け取る光は、体の調節とも関わっています。別種のグリーンアノールでは、頭頂眼を取り除いた個体が、温度の異なる場所を選べる実験環境で、対照個体より高い温度を選ぶ時間帯があったと報告されています。これは、頭頂眼が体温調節に関わることを示す手がかりです。
ただし、これは頭頂眼が温度計のように周囲の温度を測ることや、フトアゴヒゲトカゲでも同じ温度の選び方になることを意味しません。光の入力と体の調節との関係を解くには、動物種や実験条件を分けて考える必要があります。
頭頂眼の研究には、細胞で光の反応を測るものと、光を遮ったときの行動を調べるものがあります。前者からは受け取り方のしくみが、後者からは体や行動とのつながりが見えてきますが、どちらか一方で働きのすべてが分かるわけではありません。
また、頭頂眼の研究から、そのまま飼育用ライトの種類や照射量を決めることもできません。照明の選び方や紫外線環境を整える際の考え方は、次の記事で詳しく紹介しています。
まとめ|頭頂眼は、景色とは違う光の情報を受け取る
フトアゴヒゲトカゲの頭の上にある頭頂眼は、レンズや網膜を持つ、光を受け取るための器官です。左右の目と似た部品があっても、物の形を像として見る働きとは異なります。
別種のトカゲでは、波長の異なる光を感光色素が受け取り、細胞の電気的な反応へ変えるしくみが調べられています。フトアゴヒゲトカゲ自身でも光の条件と行動反応の関係が示唆されていますが、細かな受容のしくみや自然の中での役割まで、すべてが解けたわけではありません。小さな「第三の目」は、目に映る景色とは別の形で光を受け取る、感覚の入口といえます。





