アイスや生クリーム、ケーキを食べていると、猫がそばへ寄ってきたり、匂いを確かめたりすることがあります。そんな姿を見ると、「猫は甘い味が分からないと聞いたけれど、本当なのだろうか」と不思議に感じるかもしれません。
猫が人と同じしくみで砂糖の甘さを感じているとは考えにくいことが分かっています。一方で、甘い食品へ興味を示す行動そのものは、それと矛盾しません。食べ物には甘味だけでなく、香りやほかの味、栄養成分など、さまざまな手がかりが含まれているからです。「甘味を感じること」と「その食品へ近づくこと」を分けて考えると、猫の行動を少し違った角度から見られます。
猫は、人と同じようには甘味を感じないと考えられている
人を含む多くの哺乳類では、T1R2とT1R3という2つのタンパク質が組み合わさり、甘味受容体として働きます。猫では、このうちT1R2を作るための遺伝子Tas1r2が機能しない状態になっています。T1R3は残っていますが、相手となる機能的なT1R2がないため、人などが持つ典型的なT1R2/T1R3の甘味受容体を作れません。
この特徴は、遺伝子の状態だけから推測されたものではありません。猫が糖や甘味物質にほとんど選好を示さない行動や、複数の糖に対して味覚に関わる神経が反応しにくいこととも一致しています。
そのため、「猫には甘味受容体がまったくない」というより、猫は人と同じ典型的なしくみでは甘味を受け取れないと捉えるほうが正確です。
「甘味を一切感じない」とまで言い切らない理由
猫が人のように砂糖の甘さを感じているとは考えにくいだけの根拠がそろっています。ただし、動物が主観的にどのような感覚を経験しているのかを、そのまま測ることはできません。そのため、「猫は甘味を一切感じない」と絶対的に言い切るよりも、「人と同じ典型的な甘味知覚のしくみを持たない」と表現するほうが、分かっていることの範囲に合っています。
甘味が分からないからといって、味覚がないわけではない
甘味の受け取り方が人と違うからといって、「猫は味をほとんど感じていない」と考える必要はありません。猫には、機能する苦味受容体があることが確認されています。また、T1R1とT1R3の組み合わせによる、うま味に関係する受容のしくみも分かってきました。2023年には、この受容体が核酸類に強く反応し、特定のアミノ酸との組み合わせで反応が高まることや、それに対応する行動上の選好が確認されています。
つまり、猫の味覚は「人より全体的に弱い」という単純なものではありません。甘味への反応が人とは大きく異なる一方で、別の味の情報は利用しています。 そのため、「甘味が分からないから、猫は匂いだけで食べ物を選んでいる」と考えるのも少し違います。香りは重要な手がかりですが、味覚も食べ物を選ぶ情報のひとつです。
では、なぜアイスやクリームに近づく猫がいるのか
猫がアイスや生クリーム、ケーキなどへ近づくこと自体は珍しい話ではありません。ただ、その行動から「砂糖の甘さが好きなのだ」と結論づけることはできません。実際の食品には、香り、脂質、タンパク質やアミノ酸などに由来する風味、食感といった、砂糖以外の刺激も同時に存在しています。
特に、香りだけでも猫の食べ物への関心は変わり得ます。 2026年には、フードそのものを変えず、食品の匂いだけを変化させた条件でも、猫の摂食意欲が変わることが確認されました。そのため、猫が甘い食品のそばへ寄ってきても、「甘さを感じ取った」と考える必要はありません。食品の香りが関心を引いている可能性もあります。
一方で、「甘味でなければ脂肪を好んでいるのだ」と置き換えるのも早計です。猫がタンパク質・脂質・炭水化物の構成に応じて食べる量を調整することは確認されていますが、「生クリームやアイスへ近づく理由が脂質である」と直接確認されているわけではありません。
甘い食品へ猫が近づく理由を、砂糖か脂質かという二択で考えるより、ひとつの食品に含まれる複数の手がかりへ反応している可能性があると見るほうが、現在分かっていることに合っています。
食べ物の好みは、ひとつの感覚だけでは決まらない
猫が食べ物を選ぶときには、甘味以外にも複数の情報が関わります。食品の香りそのものが摂食意欲を変えることがあり、味覚についても、猫にはうま味に関わる受容のしくみがあります。アミノ酸や核酸などへの反応も確認されています。
食事の栄養組成も食べ物の選択に関係します。猫を対象にした実験では、タンパク質・脂質・炭水化物の組み合わせに応じて摂取量を調整する行動が確認されています。
食べ物の好みには、これまでの経験も影響します。出生前や授乳期に経験した香りが、その後の食品選好へ影響した例もあります。また、猫の食品選好そのものにも、個体や集団による違いがあります。
ただし、「アイスならこの成分」「ケーキならこの香り」と、家庭で見られる一つひとつの行動の原因まで特定できるわけではありません。分かるのは、食品を好きになる理由は、甘味受容の有無だけでは決まらないということです。
「うちの猫は甘いものが好き」にどう向き合えばいい?
家で暮らす猫が、いつもアイスの容器へ寄ってくる、生クリームに強く興味を示す、といった観察そのものを否定する必要はありません。その猫が、その食品に関心を持っていることは確かです。ただし、「その食品が好き」と「砂糖の甘さが好き」は同じではありません。
猫の甘味受容については、複数のイエネコでTas1r2の機能喪失が確認されています。一方、食品の好みには、香りやほかの味、栄養組成、過去の経験などが関わり得ます。そのため、「うちの猫だけは甘味が分かるのかもしれない」と考えるより、猫がその食品のどの部分に惹かれているのかは、見た行動だけでは決められないと考えるほうが自然です。
また、猫が甘味を感じにくいことと、人間用の甘い食品を食べても安全であることは別の話です。食品に含まれる成分は、猫がその味をどう感じるかとは関係なく体へ作用します。
まとめ
猫には、人や多くの哺乳類が使う典型的な甘味受容体を作るために必要なT1R2が機能しておらず、人のように砂糖の甘さを感じているとは考えにくいことが分かっています。それでも、猫がアイスやクリーム、ケーキなどへ興味を示すことはあります。食べ物には甘味だけでなく、香りや別の味、栄養成分など多くの情報が含まれているためです。
猫が「近づく」「食べる」「その食品を好む」ことと、「甘味を感じている」ことは分けて考えられます。そう捉えると、「甘味が分からないはずなのに、なぜ欲しがるの?」という疑問も、矛盾ではなく猫の食べ物の感じ方の違いとして整理できます。




