集合住宅で猫と暮らせるかどうかは、飼い主だけでなく、同じ建物に住む人にも関わる問題です。猫を迎えたい人の願いと、鳴き声や共用部の汚れを心配する人の暮らしを、どのように両立できるのでしょうか。
シンガポールでは2024年9月、公営住宅で猫を飼えるようになりました。同時に、猫の登録、安全に飼うためのルール、不妊去勢や地域で暮らす猫への支援を組み合わせた制度が始まっています。
猫と暮らすことを認めながら、その暮らしを続けられる条件も整える。 シンガポールの取り組みには、動物福祉と住民同士の共生を一緒に考えるためのヒントがあります。
公営住宅で猫と暮らすための制度
シンガポールの住宅開発庁が供給する公営住宅は、「HDB住宅」と呼ばれます。2024年9月1日から、この住宅で猫を飼うことが認められました。一般の世帯で飼える頭数は、住まいの種類によって異なります。
| 住まい | 猫の飼育頭数の基本ルール |
|---|---|
| 公営住宅 | 1戸につき猫2匹まで |
| 民間住宅 | 1戸につき犬と猫を合わせて3匹まで |
ただし、すでに一緒に暮らしていた猫には経過措置があります。2024年9月1日より前から飼っていた猫が上限を超えていても、2026年8月31日までの移行期間中に登録し、健康と福祉を守ることを条件に、引き続き飼うことができます。移行期間中に新たに迎えた猫を、同じ例外に含めることはできません。
この制度づくりでは、猫の飼い主だけでなく、猫を飼わない住民、地域で猫を世話する人、保護活動の担い手、獣医師などの意見も集められました。飼育できる頭数を決めることは、その住宅で暮らすさまざまな人の生活を調整することでもあります。
公営住宅での飼育容認は、猫の登録や飼い方のルールと一体で進められました。住まいを開くことと、その場所で猫を安全に世話する責任が結びついています。
登録で、猫と飼い主を結びつける
飼い猫には、マイクロチップの装着と、行政への飼育ライセンス登録が必要です。ここでいうライセンスは猫の飼育を行政に登録するもので、初めて申請する人には無料のオンライン飼育講習の受講も求められます。
マイクロチップは猫を識別する番号を持ち、登録によってその番号と飼い主・住所が結びつきます。迷子になった猫を飼い主へ戻すことや、感染症が発生した際に対象の猫を追跡することに役立てる仕組みです。誰がその猫の健康や暮らしに責任を持つのかも、明確になります。
制度開始から2年間の移行期間は2026年8月31日に終了し、同年9月1日以降は、未登録の飼い猫を飼育することが違反となります。移行期間中には無料のマイクロチップ装着・登録の催しも行われましたが、この一般向けの無料サービスは終了しています。現在は、費用面で支援が必要な世帯に向けた別の制度があります。
シンガポールの動物・獣医サービス部門は、2026年7月18日の発表で、制度開始以来、約6万6,000匹の飼い猫が登録されたと公表しました。これは制度の利用が進んだことを示す数字です。猫の生活がどの程度改善したかを考えるには、遺棄や近隣トラブル、世話の状況もあわせて見ていく必要があります。
登録の有無だけで猫の暮らしが決まるわけではありません。それでも、猫と責任を持つ人を結びつけておくことは、迷子や病気、飼育上の問題が起きたときに対応するための土台になります。
家の中と外で、猫の安全と近隣への配慮を両立する
飼育のルールには、猫が安全に過ごせる環境を用意することも含まれます。窓などにメッシュや格子、スクリーンを取り付けるといった方法で、猫が自由に外へ出たり、高い場所から落ちたりすることを防ぐ必要があります。
公共の場所へ連れ出す場合も、キャリーやハーネスを使い、飼い主が管理できる状態にします。家の猫が共用廊下や近隣を自由に歩き回ることは認められていません。
こうした対応は、猫自身の安全と、周囲の人の暮らしの両方に関わります。鳴き声や共用部での排せつによる影響にも配慮することで、猫を飼う家庭と飼わない家庭が、同じ住宅で暮らしやすくなります。
飼育が認められることと、猫を自由に外へ出せることは別です。 猫と暮らせる住まいを増やすために、日々の管理を飼い主の責任として具体化している点が、この制度の特徴です。
飼い主と地域の猫を支える仕組み
飼い方のルールを守るには、費用や世話を担う人も必要です。シンガポールの猫の管理制度は、家庭で飼われる猫への支援と、地域で暮らす猫への対応を並行して進めています。
費用が壁になる家庭に、不妊去勢の支援を届ける
経済的に支援が必要な世帯には、飼い猫の不妊去勢手術とマイクロチップ装着を無料で受けられる支援があります。対象には、公的な経済支援を受けている人や、公営の賃貸住宅制度を利用している人などが含まれ、利用には資格要件があります。
手術費用を負担できないまま、家庭で意図せず猫が増えてしまうことを防ぐのが狙いです。事業は寄付による基金に支えられ、行政、動物保護団体、獣医療の担い手が協力しています。ルールを求めることに加え、実行するための支えも用意されています。
地域で暮らす猫には、手術とその後の世話をつなぐ
屋外で暮らす地域の猫には、捕獲(Trap)、不妊去勢(Neuter)、譲渡または元の環境への返還(Rehome/Release)、その後の管理(Manage)を組み合わせた事業があります。これは「TNRM」と呼ばれ、2024年9月に始まりました。
猫にはマイクロチップを装着し、不妊去勢済みと分かるように耳先をカットするなどの処置を行います。譲渡できる猫には新しい家庭を探し、地域へ戻る猫は、その後も世話を担う人が見守ります。
行政の資金支援は、手術とマイクロチップだけでなく、捕獲や手術前後の預かりにも及びます。手術をする日だけでなく、その前後に必要な作業まで支える仕組みです。
飼い猫に求める屋外での管理と、すでに地域で暮らしている猫への対応は区別されています。地域猫への支援があるからといって、飼い猫を外へ放してよいという意味ではありません。
日本の地域猫活動でも、不妊去勢と日々の世話、地域住民との調整が関わります。活動の基本は、次の記事で紹介しています。
猫の一時預かりを担う人には、審査を伴う特例を設ける
新しい家庭を探している猫や、治療・療養が必要な猫を預かる人も、地域の猫を支える担い手です。2026年8月3日には、行政の承認を受けた預かり手を対象とする、約2年間の試行制度が始まりました。
対象となる公営住宅では、現地の「3-room」以上の区分の購入住宅に限り、猫を最大6匹まで、民間住宅では最大10匹まで飼育できます。この頭数には、預かっている猫だけでなく、その家庭の飼い猫も含まれます。 公営の賃貸住宅を含むすべての住戸に適用される特例ではありません。
承認には、猫の世話の経験、費用と時間の余裕、飼育環境などの審査があり、家庭訪問も行われます。猫の登録や不妊去勢も条件になり、手術には年齢や医学的な免除に関する扱いがあります。
保護活動をしているだけで、自動的に頭数制限を超えられる仕組みではありません。猫を受け入れる力と、受け入れた後の暮らしを支える力の両方を確かめる制度です。
猫と暮らせる社会を、ルールと支援でつくる
この取り組みから見えてくるのは、猫との暮らしを支える役割の広がりです。飼い主が安全と日々の世話を担い、行政が登録や飼育の条件を整え、保護団体や獣医療の担い手が費用・手術・預かりを支えています。
日本で猫と暮らす私たちにも、「住まいで飼える条件は何か」「周囲の生活にどんな影響があるか」「世話や費用に困ったときの支えはあるか」という問いは身近です。シンガポールの頭数制限をそのまま当てはめることはできませんが、飼育の責任と、それを果たすための支援を一緒に考える視点は、暮らしを見直す手がかりになります。
動物福祉は、制度の厳しさだけで測れるものではありません。猫が実際にどのような状態で暮らせるのかに目を向けると、ルールや支援が守ろうとしているものを、より具体的に考えられます。






