「殺処分ゼロ」と聞くと、収容された犬猫がすべて新しい家庭へ迎えられる光景を思い浮かべるかもしれません。けれども、処分されずに生き続けられることと、安心できる場所で暮らせることの間には、日々の世話や医療、譲渡を支える仕事があります。
台湾は2017年2月、公立の動物収容施設で、一定の日数が過ぎたことを理由に処分する仕組みを廃止しました。その制度が変えたことと、収容された後の暮らしをたどると、動物の命を守る政策に何が必要かが見えてきます。
台湾のゼロ殺処分は、何を変えたのか
台湾では以前、収容した動物について、通知・公告から12日を超えても引き取りや譲渡などにつながらない場合、処分を認める規定がありました。2015年の動物保護法改正により、この扱いを終えるための2年間の移行期間が設けられ、2017年2月に公立収容施設のゼロ殺処分政策へ移りました。
大きく変わったのは、一定の日数が過ぎたという理由だけでは、収容された犬猫を処分できなくなったことです。 飼い主の迎えや、新しい飼い主との出会いを待つ時間に、処分へ向かう期限を設けない制度になりました。
ただし、期限だけを理由とする処分をなくしても、施設の広さや職員の人数が自動的に増えるわけではありません。政府も導入時から、収容される数が譲渡される数を上回れば、過密化や一時的な受け入れ停止につながりうると指摘していました。
重い傷病への安楽死は、法定の条件下で認められる
ゼロ殺処分という言葉は、「どのような状態でも安楽死をしてはならない」という意味ではありません。台湾の動物保護法には、傷病による苦痛を取り除く場合や、人や動物の健康・安全を深刻に脅かす場合など、動物を殺すことが例外的に認められる条件があります。
収容施設については、獣医師の検査で法定の感染症や治療できない重い病気が認められた場合などが規定されています。安楽死を行う際にも、苦痛を最小限にする方法を用い、獣医師が実施するか、その監督下で行うことが求められます。
この判断には、動物の苦痛だけでなく、実施する職員への支えも関わります。農業部は2025年9月の政策説明で、法に基づく安楽死について、評価と実施の手続きを透明にし、職員への専門的な研修や支援を進める方針を示しました。
ここで区別したいのは、収容日数を理由に命を終わらせることと、重い苦痛などに対して法定の条件を満たす安楽死を行うことです。件数だけを見ると、この違いが見えにくくなります。
収容された犬猫の暮らしと、次の行き先を支える
処分されなくなった後も、犬猫は毎日、食事をし、休み、体を動かして暮らします。その一日を支える環境と、施設の外で暮らすための道筋が必要になります。
受け入れる数と、送り出せる数には地域差がある
収容と譲渡の状況は、台湾の各地域で同じではありません。台湾の会計検査を担う審計部は監査報告で、2024年10月末までの公立収容施設の譲渡率について、8つの市・県が50%未満だったと指摘しています。
この数字は当時の譲渡の状況を示すもので、施設内の犬猫の半数以上が生涯そこにとどまる、という意味ではありません。それでも、全国共通の制度があっても、次の飼い主につなぐ取り組みを地域ごとに支える必要があることを考えさせます。
収容中にも、暮らしの条件がある
台湾の公立収容施設の管理規則は、入所時のマイクロチップ確認や健康・行動の観察に加え、日々の飼養環境も定めています。清潔な水を常に飲めること、換気や暑さ・寒さへの対応、体を十分に伸ばせる空間や、適切に体を動かす時間などが求められています。
また、攻撃的な行動がある個体や特別な世話が必要な個体を分けること、傷病のある動物を獣医師の診療につなぐことも含まれます。単に空いている場所へ入れるだけではなく、その動物の状態に合わせた管理が必要です。
これらは施設に求められる基準です。規則があるという事実だけで、すべての施設で十分に実現しているとは判断できません。収容中の福祉を確かめるには、実際の空間、医療、世話を担う人員まで見ていく必要があります。
飼い主への返還、譲渡、一時預かりをつなぐ
マイクロチップの確認と飼い主への連絡は、迷子になった動物を元の暮らしへ戻すための仕組みです。新しい飼い主へ譲渡する際には、飼育能力の確認や飼い方の説明も規則に位置づけられています。
譲渡前の登録、チップ装着、不妊去勢が原則とされますが、チップ装着や手術は獣医師の判断で延期する例外もあります。また、個人や団体に一時預かりを委託できる規定もあり、施設内での世話だけで支える仕組みにはなっていません。
日本で保護犬・保護猫を迎える際の準備や譲渡の流れは、次の記事で紹介しています。
収容される前に、犬猫が増え続ける状況を減らす
収容施設を整えることと並んで必要なのが、飼い主のいない動物や、管理されずに繁殖する動物を増やさない取り組みです。台湾の農業部は、飼い主による登録や不妊去勢、遺棄・放し飼いの防止に加え、地域と連携した繁殖管理を政策に位置づけています。
屋外を徘徊する犬については、全国調査が行われています。2024年の推計は14万1,584頭で、2022年の15万9,697頭を下回りました。ただし、農業部は、この差は統計的に有意な水準に達していないとも説明しています。
これは標本調査から推計した屋外の犬の数であり、収容施設にいる犬猫の頭数ではありません。数値が前回より小さいことだけで、犬が確実に減った、あるいはゼロ殺処分政策だけで減らせたとは結論づけられません。
頭数を管理する取り組みには、飼い主へ責任を求めるだけでなく、不妊去勢への補助や地域での協力体制も含まれます。収容後の命を守ることと、収容に至る状況を減らすことは、両方を続けていく必要があります。
殺処分の数と一緒に、動物がどう暮らせるかを見る
台湾の事例が示すのは、収容期限による処分を廃止した後にも、動物福祉のための仕事が続くということです。待つ時間が長くなるなら、その間に安心して休めること、必要な診療を受けられること、個体に合う暮らしへつながることが大切になります。
政策を見るときには、処分の件数に加えて、施設の混み具合、収容期間、病気やけがへの対応、返還・譲渡の状況を確かめたいところです。送り出す頭数だけを増やすのではなく、譲渡後の生活が続けられるかにも目を向ける必要があります。
命が続くことと、その命がどのような毎日を送れるかを、一緒に考える。 台湾のゼロ殺処分政策は、日本で「殺処分ゼロ」という目標を考える際にも、数字の先にある暮らしを見る手がかりになります。
動物福祉の基本的な考え方は、次の記事でも紹介しています。






