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ペットにしつけは必要か|コントロールではなく共同生活として考える
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ペットにしつけは必要か|コントロールではなく共同生活として考える

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「しつけ」という言葉に、少し苦しい印象を持つ人は少なくありません。

「ちゃんと従わせなければいけないのでは」 「厳しくしないと覚えないのでは」 「自由にさせる方が幸せなのでは」

一方で、吠えや噛みつき、通院時の抵抗、災害時の避難など、実際の暮らしの中では「何も教えない」ことで困る場面があるのも事実です。

現在の動物行動学や適正飼養の考え方では、しつけは「支配」や「服従」ではなく、人と動物が安全に、ストレスを減らして共同生活を送るための準備として考えられることが増えています。

この記事では、「厳しくするべきか」「自由にするべきか」という二択ではなく、現代の家庭飼育における“共同生活”として、しつけをどう考えればよいのかを見ていきます。

「しつけ=言うことを聞かせること」ではなくなっている

かつてのしつけ論では、「飼い主がリーダーになる」「上下関係を教える」といった考え方が広く語られていました。

しかし現在は、少なくとも獣医行動学や動物福祉の分野では、「恐怖や威圧によって従わせること」を中心に考える流れは弱まっています。

たとえば、環境省の適正飼養関連資料では、しつけは「ペット・飼い主・地域社会のよい関係づくり」の一部として扱われています。 環境省の飼い主向け案内でも、「社会に迷惑をかけないこと」と「ペット自身が健康で快適に暮らせること」の両方が重視されています。

また、海外の獣医行動学団体は、報酬を用いた学習方法を推奨し、痛みや恐怖を与える訓練方法には慎重な立場を示しています。

ここで大切なのは、「何でも自由にしてよい」という意味ではないことです。

現在の考え方でも、生活のルールや境界線は必要です。違うのは、“どうやって教えるか”です。

「怖がらせて止める」よりも、

  • 望ましい行動を教える
  • 失敗しにくい環境を作る
  • 不安や混乱を減らす
  • 成功体験を積み重ねる

という方向へ、重心が移っています。

家庭飼育で最低限必要になりやすい“生活スキル”

家庭で暮らす犬や猫に必要とされるのは、競技レベルの服従訓練ではありません。

むしろ重要なのは、「日常生活が破綻しにくいこと」です。

たとえば、

  • キャリーやクレートに入れる
  • 通院時に過度に暴れない
  • 爪切りや投薬を受けられる
  • 決められた場所で排泄できる
  • 呼び戻しがある程度できる
  • 来客時に極端なパニックにならない

といった行動は、暮らしの安定に直結します。

これは「飼い主が楽をするため」だけではありません。

災害時の避難、急な通院、介護や在宅ケアなど、本当に必要になるのは“平常時ではない場面”です。

環境省の災害対策ページでも、同行避難を想定して、日頃からキャリーやケージに慣れておくこと、基本的なしつけを行うことが推奨されています。
参考: 人とペットの災害対策

特に猫は、環境変化へのストレスが強く出やすい動物です。

「普段は自由に暮らせているから問題ない」と思っていても、移動や診療時に極度の恐怖状態になれば、本人にとっても大きな負担になります。

キャリーや移動への慣れは、その意味で「コントロール」よりも「困りにくくする準備」に近いと言えます。

通院や避難時に使うキャリーやクレートは、日常から落ち着ける場所として慣らしていく形がよく取られます。

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問題行動は「性格」だけで起きるわけではない

「吠える」 「噛む」 「粗相をする」 「落ち着かない」

こうした行動は、つい“性格”や“わがまま”として見られがちです。

ですが、現在の行動学では、行動の背景を見る視点が重視されています。

たとえば、

  • 運動不足
  • 刺激不足
  • 恐怖
  • 不安
  • 痛み
  • 社会化不足
  • 環境へのストレス

などが、行動に影響する可能性があります。

特に「痛み」は見落とされやすい要素です。

行動問題と痛みの関連を扱ったレビューでは、攻撃性や不安行動の背景に身体的な不調が関与しているケースがあると示されています。

つまり、「しつけ不足だから叱る」という方向だけで考えてしまうと、本来見るべき原因を見逃す可能性があります。

猫のトイレ問題も同様です。

海外の猫医療に関わる獣医師団体のガイドラインでは、粗相を“嫌がらせ”ではなく、「環境・医療・ストレス要因を含むサイン」として扱うべきだとしています。

そのため現在は、

「どう止めるか」

だけでなく、

「なぜ起きているのか」 「環境側に改善点はないか」

を一緒に考える方向へ変わっています。

刺激不足や環境単調化が背景になりやすい場合には、遊びや探索行動を増やす工夫が使われることもあります。

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犬と猫では「しつけ」の重心が違う

犬と猫では、必要になりやすい内容にも違いがあります。

犬では、社会化や合図理解の比重が比較的大きくなります。

子犬期に、

  • 他の犬
  • 外の環境
  • 移動

などに安全に触れる経験が少ないと、後の恐怖や回避行動につながりやすくなります。

そのため犬では、「社会の中で落ち着いて過ごせること」が重要視されやすくなります。

一方、猫では環境設計の影響がより大きくなります。

隠れ場所、上下運動、静かな空間、トイレ環境、刺激量などが満たされないと、ストレス行動につながることがあります。

つまり、猫の“しつけ”は、命令語を教えることより先に、

「安心して暮らせる環境を整えること」

から始まる場面が多いのです。

ただし、これは「猫はしつけできない」という意味ではありません。

近年は、猫でも報酬を使って望ましい行動を増やす「正の強化」によって、

  • キャリーに入る
  • 爪切りを受ける
  • 投薬に協力する
  • 診察台に乗る

といった行動を少しずつ教える考え方が広がっています。

犬と猫で方法や重心は異なりますが、共通しているのは、「人の都合だけの支配」ではなく、「互いに困りにくい状態を作る」という視点です。

「完璧なしつけ」を目指さなくてもいい

SNSや動画では、非常に落ち着いた犬や、理想的に見える暮らしが目に入りやすくなりました。

そのため、

「うちの子はできていない」 「ちゃんと育てられていないのでは」

と不安になる人も少なくありません。

ですが、実際の共同生活はもっと不安定で、個体差も大きいものです。

年齢、健康状態、過去の経験、保護歴、住環境、飼い主の生活リズムによっても、必要な対応は変わります。

また、問題行動は「努力不足」で単純に説明できるものでもありません。

環境調整が必要な場合もあれば、医療的な背景が関係する場合もあります。

だからこそ、現在のしつけ観では、「完璧にコントロールすること」より、

  • 生活が続けやすいこと
  • お互いに過度なストレスが少ないこと
  • 必要なケアを受けられること
  • 困ったときに相談できること

の方が、現実的で重要な目標として扱われています。

しつけは、「従わせる技術」というより、人と動物が同じ社会の中で無理なく暮らしていくための“共同生活の調整”として考えた方が、今の考え方には近いのかもしれません。

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