猫が家の外を自由に歩くことは、その猫と飼い主だけで完結する話ではありません。道路や隣家の庭、野生動物が暮らす場所へ行けば、猫自身の安全と、周りの生き物や人の暮らしが関わってきます。
オーストラリアのビクトリア州にあるノックス市では、猫を24時間、飼い主の敷地内で管理する規制を導入しています。地域を自由に歩き回らせず、安全な範囲で暮らせるようにするルールです。
規制の目的と猫が実際に過ごす環境を一緒に見ることは、動物福祉を社会の中で支えるために何が必要かを考える手がかりになります。
ノックス市では、猫を24時間敷地内で管理する
ノックス市の24時間の規制は、2022年4月10日に始まりました。基本となるのは、昼夜を通して猫を飼い主の敷地内にとどめ、近隣へ自由に出歩かせないことです。
管理する範囲には、家の中だけでなく、猫が脱走できないようにした屋外の場所も含まれます。 庭に囲いを設けたり、猫が越えられないようにフェンスを整えたりする方法があります。また、市はキャリーやリードを使って猫と一緒に敷地の外へ出ることも認めています。
| 場面 | ノックス市のルールでの扱い |
|---|---|
| 猫だけで近隣を自由に歩き回る | 昼夜ともに認められない |
| 脱走を防いだ敷地内の屋外スペースで過ごす | 選択肢になる |
| キャリーやリードを使って飼い主と外出する | 認められる |
これはノックス市のルールです。ビクトリア州では自治体ごとに、猫を敷地内にとどめる時間帯や、猫の立ち入りを制限する区域などを定めています。「オーストラリアでは、すべての猫を一日中屋内に置く義務がある」という全国共通の制度ではありません。
猫・野生動物・近隣の暮らしを一緒に守る
市が掲げる目的は、猫自身の安全、野生動物の保護、近隣への迷惑の軽減です。同じ行動範囲のルールが、異なる立場の安全や暮らしに結びついています。
猫を外出先の危険から遠ざける
自由に外を歩く猫には、車との接触、ほかの動物とのけんか、感染症、迷子といった危険があります。飼い主が管理できる場所で過ごせるようにすることは、こうした危険に接する機会を減らすための対策です。
外を歩けることだけを自由と考えると、行動範囲を狭めるルールは窮屈に見えるかもしれません。一方で、安全に休み、体を動かせる状態を守ることも、猫の暮らしを考えるうえで欠かせません。
飼い猫も、野生動物に影響する
猫には獲物を追う習性があり、家庭で十分に食事を与えられている猫も狩りをします。そのため、飼い猫が地域を歩き回ることも、野生動物への影響と関係します。
猫の世話を十分にしているかどうかに加えて、その猫が家の外でどのように行動するかにも目を向ける必要があります。ノックス市の規制には、家庭の飼育と周囲の自然をつなげて捉える視点があります。
猫を飼わない人の暮らしにも配慮する
猫のスプレー行動や鳴き声、けんか、庭への立ち入りは、近隣との問題になることがあります。飼い主にとって身近な猫でも、別の家の庭では、その家で暮らす人への影響が生まれます。
敷地の境界を飼い主の管理責任と結びつけることで、猫を飼う家庭と飼わない家庭の生活を調整することも、この制度の目的です。
行動範囲を決めるなら、猫が過ごす環境も整える
猫が敷地から出なければ、それだけで快適な暮らしができるわけではありません。猫がその場所で何をできるかが、福祉を考えるうえで大切になります。
たとえば、遊ぶ、登る、爪をとぐ、隠れる、周囲を探索するといった行動の機会が必要です。落ち着いて食事や排せつができ、静かに休める場所も欠かせません。人や物音から離れたいときに退ける場所があることは、猫が自分で過ごし方を選ぶ助けになります。
屋外を利用できる住まいでは、脱走を防ぐ囲いやフェンスも選択肢になります。囲いの中にも、雨風を避けて休める場所、爪とぎ、見晴らしのよい台を設けるなど、そこでの過ごしやすさを考えます。
行動範囲を安全に保つことと、その範囲で猫らしく行動できることを、ひと組で考える。 この視点があると、外へ出せるかどうかだけで飼育環境を評価せずに済みます。
ペットの自由と、安全のための制限をどう考えるかは、次の記事でも取り上げています。
ルールを暮らしに定着させるための準備と支援
外を歩く習慣がある猫と、その飼い主の暮らしを変えるには準備が必要です。ノックス市も、当初予定していた2021年10月の開始を、2022年4月へ延期しました。当時の感染症流行に伴う家庭の負担を踏まえ、フェンスの整備や猫が家で過ごすための準備に時間を確保した経緯があります。
導入時には、開始後の2022年10月まで6か月間の猶予を設ける方針も示しました。この猶予期間はすでに過ぎています。
猫の生活環境を変える際には、安心して過ごせる場所や遊びを先に整え、行動を見ながら無理のない移行を進めることが大切です。外出を制限した後に、食欲低下、トイレの失敗、攻撃的な行動などが出た場合には、体調も含めて獣医師に相談します。
自治体を支える州の取り組みもあります。ビクトリア州の猫の管理戦略には、飼い方の教育、猫を安全に管理する囲いについての案内、不妊去勢を利用しやすくする費用面の支援が含まれています。飼い主が実行できる条件を整えることも、政策の一部です。
ただし、戦略に掲げた取り組みには、実施中のものと、これから取り組むものがあります。2026年10月5日の確認時点では、規制への移行を助ける自治体向け支援や、地域団体と連携した囲いづくりの支援は未着手で、今後進める施策に位置づけられています。
規制の厳しさに加え、猫と地域の変化を見る
制度を評価するときには、「何時間の規制があるか」に加えて、その後の暮らしにも目を向けたいところです。猫の事故や迷子、近隣との問題、野生動物への影響がどう変わったか。そして猫が家で無理なく過ごせているかが、確かめたい点になります。
制度が目指すことと、実際に達成できたことは分けて考える必要があります。 規制が導入されたという事実だけで、事故や捕食が十分に減ったと結論づけることはできません。
飼い主が環境を整えられるか、困ったときに相談や支援につながれるかも、あわせて見たい点です。州の戦略が教育や費用面の支援を含んでいるように、飼い主へ責任を求めることと、その責任を果たしやすくすることの両方が関わります。
猫の安全と、その猫らしい暮らしを両立する
ノックス市の事例は、猫の安全、野生動物の保護、近隣の暮らしを、飼い主の管理する範囲と結びつけた取り組みです。その範囲には屋内だけでなく、安全に囲われた屋外も含まれ、猫がどう過ごせるかという環境づくりが伴います。
日本で猫と暮らす私たちにも、家の内側に安心して遊び、休める場所を用意することと、家の外へ与える影響を考えることはつながっています。地域のルールを知るとともに、そこで暮らす猫の一日を思い浮かべることが、動物福祉を具体的に考える手がかりになります。
住まいと猫の管理を結びつける別の事例として、シンガポールの取り組みも紹介しています。






