子犬や子猫を迎えるとき、目の前にいる一匹のかわいらしさに心が動くのは自然なことです。その一方で、生まれた場所や母犬・母猫の暮らしは、出会った場所からは見えないこともあります。
イングランドでは、その「迎えるまでの経路」に目を向け、子犬・子猫の販売方法を変える制度を導入しました。2020年4月6日に施行された、通称「ルーシー法」です。
何を禁止し、どのような福祉の問題を減らそうとしたのでしょうか。制度が生まれた背景と、その後に残る課題をたどると、私たちがペットを迎えるときに確かめたいことも見えてきます。
ルーシー法が禁止したのは、子犬・子猫の商業的な第三者販売
ルーシー法は、生後6か月未満の子犬・子猫について、自分が繁殖していない個体を事業として販売することを禁止する制度です。別の繁殖者から仕入れ、飼い主へ販売するペットショップや仲介業者などが、この「第三者」にあたります。
「ルーシー法」は、独立した法律の正式名称ではありません。2019年の規則改正で、2018年の動物関連事業の許可制度を変更し、販売許可の条件に「自ら繁殖した子犬・子猫であること」を加えたものです。
| 項目 | 制度の内容 |
|---|---|
| 適用される地域 | イングランド |
| 施行日 | 2020年4月6日 |
| 対象 | 生後6か月未満の子犬・子猫 |
| 禁止される販売 | 自ら繁殖していない対象の子犬・子猫を、事業として販売すること |
| 迎える経路 | 繁殖者から直接購入する、または保護・譲渡団体から迎える |
イングランドは、英国を構成する地域のひとつです。この改正を「英国全域で同じ日に施行された法律」と捉えると、地域ごとの制度の違いが見えなくなります。
ペットショップや犬猫の販売すべてを禁止したわけではない
規制の基準は、店の看板や業者の呼び方ではなく、販売する本人がその子犬・子猫を繁殖したかどうかです。繁殖者による直接販売は続けられ、非営利の保護・譲渡も、この商業的な第三者販売とは区別されます。
また、生後6か月以上の犬猫や、ほかの動物の販売まで一括して禁止したわけではありません。対象外の販売にも、それぞれの許可条件や動物福祉のルールが適用されます。
「6か月未満」という年齢は、第三者販売の禁止対象を定めるための線引きです。「子犬・子猫を6か月になるまで迎えられない」という意味ではなく、幼い動物を販売できる最低年齢の規制とは別に考える必要があります。
なぜ販売経路を変えたのか——名前の由来と繁殖現場の問題
制度の名前は、繁殖施設で厳しい環境に置かれていたキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルの「ルーシー」に由来します。ウェールズの施設から保護されたルーシーは、2016年に亡くなりました。その存在が、繁殖に使われる母犬の暮らしにも関心を向けるきっかけになったのです。
こうした問題を背景に、第三者販売の禁止を求める運動が続き、政府の意見募集や公開協議へつながりました。2018年の公開協議では、回答者の96%が禁止に賛成しました。これは協議に参加した人の回答結果であり、国民全体の意見を測った数字ではありません。
幼い時期の分離と移動が負担になる
導入時に政府が問題として挙げたのは、母親やきょうだいからの早すぎる分離、販売場所までの移動、それに伴う社会化の妨げや病気のリスクでした。
生まれた場所と販売する場所が分かれると、子犬・子猫は新しい家庭へ行く前にも移動を経験します。幼い時期に母親やきょうだいと過ごす時間が短くなったり、移動によるストレスや感染の機会が増えたりすることが、福祉上の懸念になっていました。
さらに、購入者が会うのは販売者だけで、繁殖者や母犬・母猫の状態を直接確かめにくい場合があります。販売場所がきれいでも、それだけでは生まれ育った環境の良し悪しまで分かりません。
繁殖者から直接迎えることで、迎える前の暮らしを確かめやすくなります。ルーシー法には、幼い動物の負担を減らすことと、繁殖する人の責任を見えるようにすることの両方が期待されました。
直接迎えることで、何を確かめられるようにしたのか
繁殖者との直接のやり取りは、「この子はどこで生まれ、誰に育てられたのか」を確認する機会になります。母犬・母猫の様子、きょうだいとの過ごし方、健康管理について、育てた本人に質問できるためです。
現在の政府の購入者向け案内でも、子犬・子猫が暮らしている場所で、母親や一緒に生まれたきょうだいと会うことを勧めています。迎える前には医療記録を確かめ、購入を急がせる相手には慎重に向き合うことも大切です。
「自分で繁殖した」という説明を記録でも確かめる
2026年6月に更新された販売許可の運用指針は、許可を持つ販売者と繁殖者が同一人物であることに加え、自ら繁殖したことを示す証拠を求めています。検査では、交配・受精を行った場所、生まれた場所、販売まで育てた場所などの記録も確認します。
この指針は、母親との生活についても、写真、マイクロチップや獣医療の記録を確認するよう検査担当者に求めています。販売者の自己申告だけに頼らず、繁殖から販売までのつながりを裏付ける仕組みです。
ただし、これは「直接購入なら必ず健康で、すべての福祉上の問題を避けられる」という保証ではありません。直接会えることを、飼育環境や説明、記録を確かめるための機会として使う必要があります。
施行後の評価と、販売規制だけでは届かない課題
2024年12月の政府による検証では、関係者への聞き取りに基づき、子犬・子猫の第三者販売の禁止が肯定的に評価されました。ただし、これは「福祉を損なう繁殖がなくなった」という評価ではありません。
販売者と繁殖者が同じでも、場所が離れていることがある
同じ検証で課題となったのが、許可を持つ販売者が販売場所から離れた場所で繁殖し、場合によってはイングランドの外で繁殖するケースです。繁殖地の福祉基準がイングランドと同じとは限らず、販売場所までの移動も残るためです。
第三者が売っていないことと、繁殖現場の状態まで十分に確かめられることは、別の問題です。2026年の運用指針が繁殖の場所や記録の確認を求める点も、この違いを理解する手がかりになります。
許可・検査・違反への対応があってこそ機能する
事業の許可や監督を担うのは地方自治体です。2024年の検証では、許可制度全体について、無許可で活動する事業者への対応、自治体ごとの運用の一貫性、人員や専門知識の確保も改善課題となりました。
2025年12月に公表されたイングランドの動物福祉戦略も、福祉を損なう繁殖や子犬の調達に問題が残ることを認め、繁殖・販売の経路を追えるようにすることや、基準・監督の改善を掲げています。これらは今後の政策方針であり、すべてが施行済みのルールというわけではありません。
ルーシー法は販売経路の一部を変える制度です。その効果を考えるときは、禁止の有無に加えて、繁殖現場に基準が届くか、違反を見つけて対応できるかにも目を向ける必要があります。
日本との違いから、迎える前の確認を考える
日本にも、犬猫を販売する事業者の登録や飼養管理の基準、購入者への現物確認・対面説明の義務があります。幼齢犬猫の販売には、原則として出生後56日を経過するまでの引き渡し・展示の制限があり、特定の日本犬の直接販売には特例があります。詳しい対象や説明義務は、環境省の案内で確認できます。
ルーシー法の「誰が販売できるか」という規制と、日本の「いつ、どのように販売するか」というルールは、同じものではありません。販売年齢や対面説明を比較するだけでは、繁殖者から飼い主までの経路の違いを十分に捉えられません。
日本の流通では、繁殖者から直接迎える経路のほか、ショップや市場などを介する経路もあります。そのつながりを知ると、出会った場所の説明に加えて、どの情報を確かめたいのかを考えやすくなります。
これから迎えるときには、次の点を説明や書類と照らし合わせて確認できます。
- いつ、どこで生まれ、誰が繁殖したのか
- 販売・譲渡まで、どのような環境で育ったのか
- 健康状態や診療・予防に関する記録があるか
- 分からない点への説明があり、考える時間を取れるか
繁殖者を訪問する場合には、母犬・母猫との関係や育った環境も具体的に質問できます。こうした確認は、ルーシー法を日本の義務として当てはめるためではなく、迎えるまでの経路を理解するために行うものです。
すでにショップなどから迎えた人が、過去の選択だけで自分を責める必要はありません。海外の制度を知ることは、これからの選択や社会の仕組みを考える材料になります。
まとめ——出会う前の暮らしにも目を向ける
ルーシー法は、生後6か月未満の子犬・子猫の商業的な第三者販売を禁止し、繁殖者と迎える人を直接つなぐ制度です。幼い動物の分離や移動の負担を減らし、繁殖する人の責任を見えやすくしようとしました。
一方で、繁殖する場所、記録の確かさ、自治体による監督には課題が残ります。販売経路を変えることと、その経路全体で福祉を守ることは、合わせて考える必要があります。
目の前の一匹が、どのような暮らしを経てここへ来たのか。ルーシー法が投げかけるその問いは、日本でペットを迎えるときにも、説明を聞き、記録を確かめるための視点になります。






