ペットとの出会いに心が動いたとき、その日のうちに連れて帰りたいと思うことがあるかもしれません。一方で、その動物に必要な世話や、毎日の生活がどう変わるかを考えるには、少し時間がほしくなることもあります。
フランスでは、犬や猫などを迎える前に、その動物に必要な世話や環境を理解し、飼育の責任を引き受けることを確認する証明書の制度があります。証明書の交付から動物を迎えるまで、少なくとも7日間を設ける仕組みです。
何を確かめる書類で、誰に必要なのでしょうか。「7日待つ」という決まりの中身を見ていくと、動物との暮らしを始める前に考えておきたいことも見えてきます。
迎える前に、動物との暮らしを考える時間をつくる
制度の名前は「誓約と知識の証明書(certificat d’engagement et de connaissance)」です。動物の虐待防止と人との関係を扱う2021年の法律で設けられ、ペットを迎える人への適用は2022年10月1日に始まりました。
フランスの農業担当省は、この証明書を通じて、動物に必要な世話を知り、衝動的な購入を避けるために考える機会をつくることを目指しています。食事や寝床だけでなく、行動、健康、費用、不在時の世話まで、迎えた後の暮らしを具体的に考えるためのものです。
証明書には、迎える本人が署名し、その動物に必要な環境や世話を提供するという約束を手書きで記します。飼い主としての知識を試験で認定する免許ではなく、必要な情報を受け取って世話の内容を理解し、飼育の責任を引き受ける意思を示す書類です。
「かわいいから迎えたい」という気持ちに、長く世話を続けられるかを考える時間を重ねる。そのための手続きを、お迎え前に設けた制度といえます。
犬猫だけでなく、フェレットやうさぎも対象
この証明書の対象は、犬、猫、フェレット、食用でないうさぎなどの兎形目の動物です。犬猫の子どもだけを対象にした決まりではなく、成体を迎える場合にも関わります。ハムスターや鳥など、すべてのペットを一括して対象にする制度ではありません。
また、購入だけでなく、無償で譲り受ける場合や保護団体から迎える場合も対象です。個人同士の譲渡でも、渡す側は、迎える人が必要な証明書に署名しているかを確かめなければなりません。お金のやり取りがあるかどうかにかかわらず、動物との暮らしには責任が生じるという考え方です。
以前から飼っている人も、新しく迎えるときに必要になる
「これまで犬を飼ったことがあるから、証明書はいらない」とは限りません。政府の案内は、2022年10月1日より前から犬を飼っていた人でも、それ以降に初めて新たな犬を迎える際には、犬についての証明書が必要だと説明しています。
ここでいう「初めて」は、生まれて初めてペットを飼うことだけを意味しません。制度の適用後に、その動物種を新たに迎えるときの確認です。すでに適切な証明書を持っている場合の扱いは、後ほど説明します。
証明書は動物の種類ごとに用意します。犬について学び、署名した証明書を、猫を迎える際にそのまま使うことはできません。適した食事や環境、必要な運動や遊びは、動物の種類によって異なります。その違いが、手続きにも反映されています。
証明書で確かめるのは、生涯にわたる世話と負担
証明書に盛り込む内容は、フランスの農事・海洋漁業法典で定められています。中心となるのは、その動物に必要な世話や環境、個体識別に関する義務、生涯にわたって必要な費用や世話の体制です。
| 確かめる内容 | 暮らしに置き換えた例 |
|---|---|
| 体の健康とその動物らしい行動を支える世話・環境 | 食事と水、休める場所、運動や遊び、人や仲間との関わり |
| 必要な医療・健康管理 | 日常の健康管理、予防、病気や事故への対応、年齢を重ねた後のケア |
| 個体識別に関する義務 | その動物種に必要な識別や登録のルール |
| 生涯にかかる費用と、世話を続けるための備え | 食費や医療費、住まいの準備、不在時の預け先とその費用 |
たとえば、医療費は迎えた直後の支出だけでは終わりません。運用指針では、定期的な診療に加え、予期しない事故や病気、最期を迎えるまでのケアにかかる負担まで考える内容になっています。
行動についても、ただ静かに過ごせればよいという見方ではなく、その動物種に必要な運動や関わりを含めます。同じ種類の動物でも、年齢や健康状態、品種などによって必要な配慮が変わるため、証明書の内容をもとに、実際に迎える個体についても確かめることが大切です。
説明する人と、迎える人にはそれぞれの役割がある
証明書を発行できるのは、フランスでペットの飼育に関する知識を証明する資格を持つ人や、それと同等の要件を満たす人です。獣医師、繁殖者、保護施設の担当者などが該当する場合がありますが、肩書きだけで誰でも発行できるわけではありません。
迎える人は説明を受け、内容を理解したうえで署名します。発行する人と動物を譲る人は、同じでなくても構いません。たとえば、資格を持たない個人から譲り受ける場合は、別の発行資格を持つ人から証明書を受け取ることができます。
対面での説明に加え、遠隔での交付も可能です。質問票や詳しい講習が使われる場合はありますが、迎える人全員に一律の試験や講習への参加を義務づける制度ではありません。
7日間は、証明書を交付された日から数える
法律が定めているのは、証明書が迎える人に交付されてから、動物を迎えるまでに少なくとも7日間を置くことです。動物を渡す側がこの期間を確認し、迎える本人が希望しても短縮はできません。
署名も動物を迎える前に必要ですが、7日間の起算点は署名日ではありません。2025年3月、フランスの行政裁判を担う国務院は、署名から7日間を求めていた従来の運用指針の一部を取り消しました。同年4月の改訂指針は、法律に沿って「交付から7日間」としています。
この区別は、実際の準備にも関わります。証明書を初めて受け取った日にそのまま迎えることはできませんが、十分前に交付された証明書がある場合に、署名した日から改めて7日間を数える決まりではないのです。
同じ動物種の証明書は、次のお迎えにも使える
2025年の運用指針では、証明書に有効期限はなく、同じ動物種を再び迎えるときにも提示できるとしています。犬の証明書なら、後に別の犬を迎える際にも使えます。
そのため、「フランスでは、どのペットと出会っても、その日から必ず7日待つ」と理解すると正確ではありません。基準になるのは、その動物種についての証明書の交付日です。すでに交付から7日以上が過ぎた適切な証明書を持っている場合、迎える個体が変わるたびに証明書を取り直し、新たな7日間を設ける仕組みではありません。
一方で、犬の証明書を持っている人が初めて猫を迎えるなら、猫についての証明書が必要です。同じ種の次のお迎えと、別の種を初めて迎える場合を分けると、この制度の対象が分かりやすくなります。
書類を整えることから、暮らしを具体的に考えることへ
証明書の狙いは、その動物に必要な世話や環境を知り、生涯にわたる世話を考えたうえで迎えることです。署名と日数の条件を満たしても、それだけで家族の分担や費用、不在時の対応が決まるわけではありません。衝動的に動物を迎えることや、動物を捨てることを減らすという制度の目的と、実際にどれだけ減ったかという成果も、分けて考える必要があります。
決まりを実際に守ってもらううえでの課題もあります。2025年6月のフランス上院報告は、一部の販売で、証明書の日付を実際より前にして7日間の待機を避ける問題を指摘しました。対策として、発行日時を記録する電子手続きの導入を提言しています。考える時間を確保するには、書類の有無だけでなく、いつ交付されたかを確かめられる仕組みも大切です。
また、同じ報告は、動物を手放す背景に、飼い主の死亡や高齢者施設への入居、離婚などの事情もあるとしています。こうした生活の変化を考えると、迎える前の知識や約束だけで、その後の飼育をすべて支えることはできません。世話が難しくなったときに相談できる先や、世話を引き継ぐ人を探す支援も必要になるでしょう。
日本で暮らす私たちにとっても、この制度はお迎え前の準備を考える手がかりになります。ここで紹介した7日間はフランスの法制度ですが、動物について得た知識を自分の生活と照らし合わせる時間は、それぞれの家庭でもつくれます。
たとえば、次のような問いを、実際の予定や家計に当てはめてみると、準備が必要な部分を見つけやすくなります。
- 平日の朝晩に、誰が食事・掃除・運動の時間を確保するか。
- 普段の費用に加え、急な通院や継続的な治療にどう備えるか。
- 旅行や入院で世話ができない間、誰に、どのように頼むか。
- 住まいや働き方が変わったときにも、世話を続けられるか。
家族で話し合う項目や、主担当・不在時の担当を決める考え方は、次の記事で詳しく紹介しています。
フランスの制度が設けたのは、その動物に必要な世話や環境を知ってから迎えるまでの間に、生活を考える機会を持つための手続きです。決められた日数を過ごすだけでなく、その時間に何を確かめるか。迎えたい気持ちを、長く世話を続ける準備につなげる視点として受け止めたい制度です。






