犬と暮らしていると、散歩中の引っ張りや来客への吠えなど、教え方に迷う場面があります。「早く覚えてほしい」と思う一方で、犬にどのくらい負担がかかる方法なのかも気になるところです。
ドイツでは、犬の訓練やしつけに、とげのある首輪や犬に痛みを与える手段を使うことを禁じています。何を覚えさせるかに加え、教える過程で犬をどう扱うかにも、法的な決まりを設けています。
この規制は何を対象にし、どんな考え方につながっているのでしょうか。制度の内容をたどりながら、犬との暮らしに生かせる視点を見ていきます。
2022年から、痛みを与える訓練用具の使用を禁止
規制を定めているのは、ドイツの犬の保護に関する命令(Tierschutz-Hundeverordnung)です。第2条第5項は、犬の訓練・しつけ・トレーニングで、とげのある首輪や、その他の犬に痛みを与える手段を使用することを禁じています。この規定は2022年1月1日に施行されました。
ここでいう、とげのある首輪は、スパイクカラーやプロングカラーとも呼ばれるものです。条文は特定の首輪を名指しするとともに、ほかの痛みを与える手段も対象にしています。 別の商品名ならよい、という決まりではありません。
対象は専門の訓練施設だけに限られません。命令は犬の飼育と繁殖に適用され、この禁止規定も、職業として訓練する人や特定の犬種だけを対象にしていません。家庭で犬に行動を教える場面にも関わるルールです。
規制の対象は、訓練やしつけでの「使用」
第2条第5項が禁じているのは、訓練やしつけなどでの使用です。首輪そのものの販売・所持を一括して禁じる規定ではないため、禁止の内容を読むときには、何を、どの場面で使う決まりなのかを確かめる必要があります。また、この規定が特定の訓練教室や流派を指定しているわけでもありません。
命令の適用範囲にも条件があります。第1条は輸送中のほか、獣医師が個別に異なる飼育条件を必要と判断する診療中や、科学的な目的のために異なる条件が不可欠な実験目的の飼育を、適用除外としています。こうした条件と、家庭で日常的に犬へ行動を教える場面は分けて捉える必要があります。
行動が変わったかと、犬に負担がないかを一緒に考える
ドイツの動物保護法は、もともと第3条第5号で、動物に著しい痛み、苦しみ、損傷を伴う訓練を禁じています。犬についての命令は、その大きな原則に加えて、とげのある首輪などを使う場面を具体的に定めたものと理解できます。
規制を導入する際、連邦参議院は、犬の教え方に関する科学的知見を踏まえ、罰として刺激を与える方法を動物保護に適合しないと評価しました。ブレーメン州が当時公表した説明にも、この理由と、痛みを伴う手段を禁じる方針が記されています。
この考え方を理解するうえでは、犬が人の望む行動をしたかだけでなく、学習中にどのような状態だったかにも目を向けることが役立ちます。行動の変化と、動物が経験する負担は、あわせて考えたい点です。
訓練中の犬の状態を調べた研究
2020年に発表されたポルトガルの研究では、7つの訓練教室に通う家庭犬92頭を対象に、訓練方法と犬の状態を調べました。犬が避けたいと感じる刺激を多く使う教室の群では、報酬を中心に教える教室の群より、口をなめるなどのストレスに関連する行動が多く、体が緊張した状態も多く見られました。
ただし、これは犬を無作為に別々の方法へ割り当てた実験ではありません。もともと通っていた教室の犬を比較しているため、訓練方法だけが差の原因だと断定はできず、どちらが行動を覚えるのに効果的かを比較した研究でもありません。
それでも、教えている最中の犬の負担を、観察できる行動から確かめる視点を与えてくれます。この研究はドイツの規制による成果を測ったものではなく、訓練と動物福祉の関係を考えるための知見です。
痛みの禁止とともに、運動や人との関わりも求める
同じ命令の第2条は、痛みを伴う手段の禁止だけでなく、犬の日々の暮らしについても定めています。犬舎の外で十分に体を動かすこと、世話をする人と一日に何度も十分な時間を過ごすこと、ほかの犬と関わる機会を持つことが含まれます。
| 暮らしの要素 | 命令で求めていること |
|---|---|
| 屋外での運動 | 犬舎の外で十分に運動できるようにする |
| 人との関わり | 世話をする人と、一日に複数回、十分な時間を過ごせるようにする |
| ほかの犬との接触 | 定期的な接触の機会をつくる。ただし、健康上の理由や相性の問題から、犬自身や相手を守るために難しい場合を除く |
| 個々の犬への配慮 | 運動と社会的な接触を、犬種・年齢・健康状態に合わせる |
すべての犬に同じ運動量や交流の仕方を求めるのではなく、その犬の条件に合わせることも決まりに含まれています。 苦痛を避けることと、必要な活動や関わりを満たすことを、同じ飼育の責任として捉えている点が特徴です。
しつけの場面とあわせて、一日をどう過ごしているかにも目を向ける。この制度は、犬の暮らし全体から福祉を考えるきっかけになります。
警察犬の訓練でも、教え方の見直しが課題になった
規制の導入は、仕事をする犬の訓練にも影響しました。2022年1月13日、ブレーメン州は、州内の警察犬の訓練体制を、とげのある首輪を使わずに成り立つものへ変えるよう求めたと発表しています。
同州の発表は、警察犬が捜索などで果たす役割を認めながら、訓練の仕組みを見直す必要性を述べています。道具を一つ外すだけでなく、犬の繁殖・育成のあり方にも言及しており、現場が新しい条件に対応するための課題が読み取れます。
ここで紹介しているのは、2022年当時のブレーメン州の方針です。ドイツ全体で訓練の見直しが完了したことや、規制によって犬の負担がどれだけ減ったかを示す数字ではありません。
制度を理解するときは、何を禁止したか、現場でどう実行するか、その後どのような変化があったかを分けて見ることが大切です。ドイツの例からも、ルールを設けることと、それに沿った教え方を支えることの両方が必要だと考えられます。
家庭では、何を教えたいかと教え方を確かめる
日本で犬と暮らす私たちにとっても、ドイツの制度は、犬に行動を教えるときの方法を見直す手がかりになります。紹介した禁止規定はドイツのものですが、犬の負担も含めて教え方を選ぶ視点は、それぞれの家庭でも持つことができます。
教え方について、米国獣医動物行動学会は2021年の声明で、報酬を使う方法を推奨しています。覚えてほしい行動を、言葉や身ぶりの合図と、おやつ・遊びなどの報酬を通じて教える考え方です。生活のルールも、恐怖や痛みに頼らずに伝えることを求めています。これは獣医行動学の団体による推奨であり、ドイツ法が指定した訓練方法ではありません。
訓練を依頼するときも、結果の約束だけでなく、実際に何をするのかを確かめておくと、方法を選びやすくなります。
- 犬にどんな行動を教え、できたときに何を報酬にするか。
- 犬ができないときや怖がったとき、道具や接し方をどう変えるか。
- 犬が安心して学べるように、周囲の環境をどう整えるか。
強い恐怖や攻撃行動がある場合は、飼い主だけで対処を抱えず、獣医師や報酬を使う方法に詳しい専門家へ相談することも選択肢になります。必要な生活のルールをどう捉えるかは、次の記事でも紹介しています。
ドイツの規制が問いかけているのは、犬に行動を覚えてもらう過程で、どんな負担を負わせているかという点です。できたかどうかに加え、その犬が安心して学べているかにも目を向ける。海外の制度を、毎日の関わり方を考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。






