「猫が増えて、世話が追いつかない」。そんな相談の背景には、手術の費用だけでなく、飼い主の家計や健康、周囲に頼れる人がいるかどうかも関わっていることがあります。動物の世話を改善するには、飼い主自身の暮らしにも支えが必要な場合があるのです。
長野県内では、動物愛護と社会福祉の関係者が一緒に事例を考える取り組みが育っています。2026年2月には、上田保健福祉事務所と任意グループ「チームTAG」が、地域の実践を集めたヒント集を共同発行しました。
動物の命を守ることと、飼い主の生活を支えることを、どうつなげるのか。 長野県の取り組みから、分野を越えて支える仕組みを見ていきます。
動物の困りごとには、飼い主の暮らしも関わる
多頭飼育の問題に対応するときは、動物の頭数や飼育環境とともに、飼い主が日々の世話を続けられる状況かを確かめることも大切です。経済的な困難や社会的な孤立が重なれば、不妊去勢手術や掃除が必要だと分かっていても、自分だけでは進められない場合があります。
こうした課題は、長野県だけのものではありません。環境省は2021年に多頭飼育対策のガイドラインを公表し、社会福祉と動物愛護管理の関係者が協力して、予防や解決に取り組む方針を示しました。
動物の健康や暮らす環境を守るには、飼い主の生活が行き詰まっている理由にも目を向ける必要があります。多頭飼育問題の背景や、動物・人・地域それぞれへの影響は、次の記事で詳しく紹介しています。
長野県で育った、分野を越えて相談する場
長野県の「チームTAG(たぐ)」は、動物と福祉の専門職やボランティアが情報を交わし、一緒に学ぶ任意グループです。2022年に東信地区の多頭飼育の事例に関わった、多分野の関係者の会議をきっかけに生まれました。
一つの事例の会議にとどまらず、相談や学び合いを続けたい。そうした関係者の思いから、オンラインでやり取りする場が育ち、参加者は県内の各地へ広がっていきました。
2024年には、県社会福祉協議会、県や市町村の動物愛護管理の担当者、ボランティア団体、民間の獣医師などが、月1回のオンライン会議で疑い事例を共有し、対策を検討していました。動物の飼育に関する知識と、生活を支える知識を持ち寄る場です。
チームTAGは、県の一部署として一律のサービスを提供する組織ではありません。関係者が対応に迷ったときに相談し、そこで得た助言をそれぞれの地域の支援へ持ち帰るつながりとして活動しています。
猫の世話と生活の支援を、同じ方針で進める
では、一緒に支えるとは、実際には何を分担するのでしょうか。ヒント集に載る、チームTAGの発足につながった事例では、猫が増えて家の片付けが難しくなった家庭について、家族や親族から生活相談の窓口「まいさぽ」へ相談が入りました。
対応では、福祉の担当者や動物の支援者だけでなく、本人も加わって、現地の状況と今後の方針を話し合っています。そのうえで、動物側と生活側の支援を分担しました。
| 支える側 | この事例で担ったこと |
|---|---|
| 動物の支援を担う関係者 | 不妊去勢手術、飼育環境の改善、飼い方を学ぶ機会づくり |
| 福祉の支援を担う関係者 | 生活プランの作成、飼育を続けるための生活面の支援 |
| 本人と関係者 | 現地の状況を確かめ、今後の方針を話し合うこと |
手術で繁殖を抑えることと、日々の世話が続く生活を整えることを、同じ家庭への支援として進めています。この分担は掲載事例での対応であり、必要な支援や使える制度は家庭ごとの状況に合わせて考えます。
連携には、紹介した後も状況を共有し、見守ることが含まれます。 ヒント集は、事例がある程度落ち着くまで関係者が協力を続けることを目指しています。動物の担当者も福祉の担当者も、一人だけで全てを抱え込まず、それぞれが担えることを確かめながら支える考え方です。
深刻になる前に、動物と生活の相談先へ
動物の飼育に困っていても、「どこに相談したらよいか分からない」「周囲から責められそう」と感じ、声を上げにくいことがあります。困りごとが大きくなる前に相談先とつながることも、地域で支えるための大切な入口です。
長野県は、「猫が増えてしまった」といった困りごとについて、保健所等で相談を受け付けています。保健所職員、動物愛護センター職員、動物愛護推進員、ボランティア団体などが協力し、状況に応じて援助できる方法を考えます。飼育に不安があるときは、県の多頭飼養に関する相談案内から地域の窓口を確認できます。
家計や仕事、住まいなどの困りごとには、生活就労支援センター「まいさぽ」という入口もあります。相談支援員が生活の状況を聞き、地域の関係機関と協力しながら支援プランを考えます。窓口は県の生活困窮者自立支援制度の案内から探せます。
生活の相談をするときにも、動物の世話で困っていることを併せて伝えてみてください。すでに福祉の支援を受けている人なら、普段関わる担当者に、動物側の相談先との連携を相談する方法もあります。
相談後の対応は、動物の状態や飼い主の暮らし、地域で利用できる支援によって変わります。相談すれば必ず手術費用が無料になったり、全ての動物を引き取ってもらえたりするわけではありません。今何に困り、どんな手助けが必要なのかを、一緒に考えるための入口として捉えるとよいでしょう。
動物を守るために、飼い主を支える
長野県の実践から見えてくるのは、動物の飼育と飼い主の生活を、一緒に支える視点です。手術や飼育環境の改善を進めながら、生活面の支援も組み合わせ、その後の様子を関係者で見守っていきます。
飼い主の責任を一人で抱え込ませず、地域で支えられることを探す。自分や身近な人の世話に不安が出てきたとき、早めに相談することは、動物と人の暮らしを守るための行動になります。






