犬や猫と暮らす家庭の状況は、外からは見えにくいものです。何頭が暮らし、繁殖を防ぐ措置はできているか。飼い主が世話に困り始めていても、行政が知るきっかけがない場合があります。
埼玉県には、犬と猫を合わせて10頭以上飼う場合に、飼育の状況を行政へ届け出る制度があります。目的は、多数の動物を飼う実態を把握し、必要な助言や指導につなげることです。
頭数を知ることを、動物の健康と飼い主・地域の暮らしを守る行動にどうつなげるのか。 届出の対象や内容、その後の対応から、埼玉県の仕組みを見ていきます。
行政が飼育の実態を知るための届出
埼玉県の「動物の多数飼養届出制度」は、県の動物愛護管理条例の改正により、2014年10月1日に始まりました。多数の動物を飼う家庭などの状況を把握し、動物の健康や安全が損なわれたり、臭いや鳴き声で周囲の生活環境が悪化したりすることを防ぐための制度です。
飼い主から情報を受け取ることで、行政は、どこでどのように犬猫が飼われているかを知り、必要に応じて飼い方の助言や指導を行えます。近隣から苦情が出た後の対応だけでなく、飼育の状況を知るための入口を設けている点に、この届出の意味があります。
届出は、一定の頭数になったときに実態を伝える手続きです。飼育の可否を事前に審査する許可や、「この環境なら適正に飼える」という認定とは異なります。10頭という数字も、飼ってよい頭数の上限を意味していません。
対象は、同じ場所で犬猫を合計10頭以上
県の制度は、さいたま市を除く県内で、生後90日を超える犬と猫を、同じ飼育施設等で合計10頭以上飼う人が対象です。数える単位には、飼育に使う建物とその敷地、飼育用の土地も含まれます。
犬だけで10頭、猫だけで10頭の場合に加え、犬4頭と猫6頭のような組み合わせも対象になります。一方、生後90日以内の子犬や子猫は、この届出の頭数には含めません。鳥やうさぎなどを一緒に飼っていても、この制度では犬と猫の対象頭数を数えます。
ただし、すでに別の制度で登録・届出・許可を受けている人などには、適用除外があります。主な対象は次のとおりです。
- 第一種動物取扱業の登録を受けた人
- 第二種動物取扱業の届出をした人
- 動物病院の開設届を出した人
- 化製場法に基づく動物の飼養・収容の許可を受けた人
保護や譲渡の活動をしているという理由だけで、自動的に対象外になるわけではありません。自分の活動や飼い方がどの制度に当たるか迷う場合は、届出先に状況を伝えて確かめてください。
さいたま市にも、別の届出制度がある
さいたま市は県条例の適用区域から外れていますが、市にも犬猫を合計10頭以上飼育する場合の届出制度があります。「県の制度の対象外だから、届出がいらない」ということではありません。
市内で飼育する場合は、さいたま市の届出案内で手続き先を確認してください。また、さいたま市で犬を10頭以上飼う場合には、飼育する区域などによって化製場法に基づく許可が必要になるため、届出との違いも市に確認する必要があります。
頭数に加えて、飼育場所や繁殖の状況も伝える
県への届出では、飼い主の氏名や住所、飼育施設等の所在地に加え、犬と猫の内訳や頭数、施設等の構造・規模を伝えます。犬猫の性別や、不妊・去勢の措置を行っているかどうかも届出事項です。
何頭いるかだけでなく、どのような場所で暮らし、繁殖を防ぐ措置が取られているかも行政が把握できる内容になっています。届け出た後も、所定の変更があったときや、対象頭数を下回ったときには手続きが必要です。
| 状況 | 必要な手続き・期限 |
|---|---|
| 対象となる犬猫が合計10頭以上になった | その日から30日以内に、新規の届出 |
| 届出後、氏名・住所や飼育施設等の所在地など、定められた事項が変わった | 変更した日から30日以内に、変更の届出 |
| 届出後、対象となる犬猫が合計10頭未満になった | 遅滞なく、廃止の届出 |
| 廃止の届出後、再び合計10頭以上になった | 改めて、新規の届出 |
廃止の届出は、犬猫を一頭も飼わなくなったときだけの手続きではありません。合計10頭未満になり、この届出の対象から外れたことを伝えるためにも必要です。また、変更届が必要なのは定められた事項であり、頭数が変わるたびに全ての変動を申告する仕組みではありません。
新規・変更の届出をしなかったり、虚偽の内容を届け出たりすると、3万円以下の過料の対象です。様式や提出方法は、埼玉県の制度案内で確認できます。持参のほか、県の案内に沿って郵送や電子メールで提出する方法もあります。
届出の後は、飼育状況の確認と助言につなげる
では、行政が情報を受け取った後には、何をするのでしょうか。2025年9月定例会の県議会答弁で、県は、届出のあった施設の飼育状況を確認し、必要に応じて繁殖防止や飼育環境の改善について助言していると説明しています。
同じ答弁では、2024年度末の届出施設数は327件でした。これは届出のあった施設の数であり、多頭飼育崩壊の発生件数を表す数字ではありません。頭数の条件に当てはまれば、世話が行き届いている場合も届出の対象になるためです。
情報を受け取ることと、その後の様子を確かめることが組み合わさって、予防のための働きにつながります。 県は同答弁で、制度の周知を続けることに加え、福祉部局などと連携し、新たに把握した多頭飼育の状況を速やかに確認する方針も示しました。
届出だけで、見えていない家庭の困りごとを全て把握できるわけではありません。制度を知ってもらうことや、飼い主と接点を持つ関係者が相談先へつなぐことも必要です。動物の世話と飼い主の生活を一緒に支える連携の例は、長野県の記事で紹介しています。
世話の困りごとは、10頭になる前から相談できる
届出が必要になる頭数と、世話を続けられるかどうかは、分けて考える必要があります。9頭以下でも、食事や掃除、健康管理が追いつかなければ困りごとは生じます。10頭以上であることだけを理由に、飼育が破綻していると決めることもできません。
「不妊去勢ができずに子猫が生まれている」「トイレの片付けが追いつかない」「入院したら世話をする人がいない」。こうした不安があれば、届出の基準に達するのを待たず、地域の相談先につながることが大切です。県は、世話が行き届かない場合の早期相談や、介護・福祉関係者と動物の担当機関との連携を呼びかけています。
埼玉県の飼育相談の案内には、県の保健所や動物指導センター、さいたま市・川越市・越谷市・川口市の窓口が載っています。動物の種類や住んでいる地域に合う窓口を確かめ、頭数とともに、世話や生活のどこに困っているかを伝えてください。
多頭飼育の問題には、繁殖管理だけでなく、飼い主の生活上の困難が重なることもあります。その背景は次の記事で詳しく紹介しています。
埼玉県の届出制度は、飼い主から受け取った情報を、飼育状況の確認や必要な助言へつなぐ仕組みです。頭数だけで良し悪しを判断せず、犬猫がどう暮らし、飼い主がどんな世話を続けられているかに目を向けることが、制度を理解する手がかりになります。






