ペットの暮らしを支えるのは、毎日そばにいる飼い主だけではありません。生まれた場所から家庭へ迎えられるまでの経路、住まいでの過ごし方、飼い主を失ったときの行き先にも、社会の仕組みが関わっています。
海外の動物福祉やペット政策に目を向けると、そうした場面ごとに異なる取り組みが見えてきます。販売方法を変える制度もあれば、飼い主が学ぶ機会や、動物に必要な日常をルールにした制度もあります。
どの場面で起きる問題に、どのように働きかけているのか。 10の国・地域の事例を、ペットを迎える前から保護された後までの5つのテーマでたどります。気になるテーマから、その背景を詳しく紹介する記事へ進んでみてください。
海外のペット政策を、暮らしの5つの場面から見る
制度の名前だけでは、何を守ろうとしているのかが伝わりにくいことがあります。まずは、その制度がペットと人の暮らしのどこに関わるかを整理すると、違いやつながりを捉えやすくなります。
| 着目する場面 | 考えたいこと | 紹介する国・地域 |
|---|---|---|
| 迎える前の経路と準備 | どこから迎え、どんな責任を引き受けるか | イングランド、フランス、オーストリア |
| 飼育する動物の選択 | 家庭でその動物の必要を満たせるか | オランダ |
| 毎日の暮らし | 仲間、運動、人との関わり、接し方をどう保障するか | スイス、ドイツ、スウェーデン |
| 地域の中での共生 | ペット、人、野生動物の暮らしをどう調整するか | シンガポール、オーストラリアのノックス市 |
| 保護された後の生活 | 命を守りながら、世話と次の行き先をどう支えるか | 台湾 |
ここで紹介する制度は、それぞれの国・地域の取り組みの一部です。ひとつの制度の有無だけで、その地域の動物福祉全体を順位づけることはできません。同じ「命を守る」という目的でも、誰に何を求めるか、実行をどう支えるかに目を向けて読むことが大切です。
迎える前に、経路と飼い主の責任を確かめる
ペットとの暮らしが始まる前にも、動物福祉に関わる選択があります。繁殖された環境を確かめられるか、必要な世話や費用を理解できているか。迎える前の段階に働きかける制度から見ていきましょう。
イングランド:子犬・子猫の販売経路を変える
イングランドの「ルーシー法」は、生後6か月未満の子犬・子猫について、自ら繁殖していない個体を事業として販売することを禁止しています。繁殖者から直接迎える経路を通じて、生まれ育った環境や母犬・母猫の状態を見えやすくする狙いがあります。
着目したいのは、店頭で出会う一匹と、その背景にある繁殖環境をつなげて考える視点です。規制の対象や導入後に残る課題は、次の記事で紹介しています。
フランス:世話や費用を理解する時間を設ける
フランスには、犬や猫などの対象動物を迎える際に、その動物の必要や飼育の負担を確認する「誓約・知識証明書」の制度があります。証明書には、動物の体の仕組みや習性に合った世話、医療、費用、生活上の準備などが含まれ、交付から引き渡しまで少なくとも7日間を空けます。
その場の気持ちだけで迎える前に、これから続く毎日の世話を具体的に考える仕組みです。誰が対象になり、証明書で何を確かめるのかを見てみましょう。
オーストリア:飼い主が学ぶことを制度に組み込む
オーストリアでは、犬の飼育にあたり、迎える前の理論講習と、迎えた後に犬と一緒に受ける実技講習を組み合わせた制度があります。全国の制度に加えて地域ごとの規定や免除条件もあり、飼育歴などによって受講の扱いが変わります。
フランスの書面による確認と並べると、責任を伝える方法にも違いがあることが分かります。知識を得ることと、実際の犬との関わり方を学ぶことをどうつなげるかが、この事例の読みどころです。
家庭で飼える動物の範囲を考える
迎える人の準備に加えて、「その動物が家庭で暮らすために、どんな条件が必要か」という問いもあります。飼育できる動物の種類をあらかじめ決める制度は、この段階に働きかけます。
オランダ:飼育できる哺乳類をリストで定める
オランダのポジティブリストは、ペットなどとして飼育できる哺乳類を指定する制度です。動物の習性や飼育上の必要、人の安全などを踏まえ、飼育する種類の選択に基準を設けています。
「手に入れられること」と「必要を満たして飼い続けられること」は、別に確かめる必要があります。 身近に感じる動物でも、動き回る空間や特有の行動への対応が難しいことがあります。
このリストは、鳥や爬虫類を含むすべてのペットを一括して扱うものではありません。また、制度が始まる前から飼われていた対象外の動物には、条件付きの経過措置があります。種類を制限する考え方と、すでに暮らしている動物への配慮をあわせて読める事例です。
仲間との関わりや運動を、日々の飼育条件にする
動物に必要なことは、食事や水だけではありません。同種の仲間と過ごすこと、体を動かすこと、人と安心して関わることも、飼育環境を考える要素になります。次の3つの事例は、日常の過ごし方や人の接し方を具体的に扱っています。
スイス:モルモットの仲間との関わりを守る
スイスでは、モルモットは原則として少なくとも二匹で飼育することが求められます。人がかわいがることや、別の種類の動物がそばにいることだけでは、同種の仲間との関わりを置き換えられないという考え方です。
頭数だけでなく、一緒に過ごすための広さや退避できる場所にも目を向けると、このルールが守ろうとする暮らしが見えてきます。最低基準と推奨される環境の違いも、次の記事で整理しています。
ドイツ:犬に必要な暮らしと、訓練で避ける行為を定める
ドイツの犬の保護に関する規則には、屋外での運動や世話をする人との接触など、日々の飼育条件が含まれます。また、訓練・しつけの際に、スパイクカラーや、犬に苦痛を与えるほかの手段を用いることを禁止しています。
犬の行動を変えようとするときにも、その過程で犬がどう扱われるかを確かめる視点です。規則の対象と、道具や方法の捉え方は、次の記事で詳しく紹介しています。
スウェーデン:散歩と人との関わりを日常に位置づける
スウェーデンの飼育ルールや公的な助言は、犬が毎日屋外に出ること、人と関わること、ひとりで過ごす際の不安への配慮などを扱っています。よく知られる「日中少なくとも6時間ごとに散歩」という目安は、公的な助言です。
これは「犬の留守番は法律で一律6時間まで」という意味ではありません。義務と助言の違いを知り、年齢や状態に合う世話まで読み取ることが、犬の一日を考える助けになります。
ペットと、人や野生動物の暮らしを調整する
家庭での飼育は、近隣の人や周りの生き物にも関わります。猫の飼育を認める条件や、行動範囲を定める制度を見ると、動物の安全と地域での共生を一緒に考える視点が見えてきます。
シンガポール:猫を飼える住まいと管理のルールを整える
シンガポールでは、公営住宅での猫の飼育を認める変更と、飼い猫のライセンス登録やマイクロチップ、安全管理を組み合わせています。飼育できるようにすると同時に、転落や自由な出歩きを防ぐ対策などを飼い主に求める仕組みです。
制度には、所得の低い世帯への不妊去勢などの支援や、地域猫の管理も含まれます。飼い主の責任と、その責任を果たすための支えをあわせて見ることができます。
オーストラリアのノックス市:猫の行動範囲を定める
ビクトリア州のノックス市では、猫を24時間、飼い主の敷地内で管理するルールがあります。猫自身の安全、野生動物の保護、近隣への迷惑の軽減を目的とする制度です。
管理できる範囲には、脱走を防いだ屋外の場所も含まれます。また、キャリーやリードを使って飼い主と外出することも認められています。オーストラリア全国で一律に猫を屋内へ閉じ込める制度、と捉えると内容を取り違えてしまいます。
安全な範囲を決めたうえで、猫がそこで遊び、探索し、休める環境をどう整えるか。行動範囲と暮らしの質を一緒に考える事例です。
保護された動物の命と、その後の生活を支える
飼い主の迎えや譲渡を待つ動物にも、毎日の暮らしがあります。収容施設の制度を考えるときは、命を守る決定が、その後の世話や医療、次の行き先とどう結びつくかが大切です。
台湾:収容期限による処分を廃止した後を考える
台湾は2017年2月、公立の動物収容施設で、一定の日数が過ぎたことを理由に処分する仕組みを廃止しました。いわゆる「ゼロ殺処分」政策ですが、重い傷病などに対する、法定の条件を満たした安楽死まで一律に禁止するものではありません。
期限による処分をなくした後も、清潔な環境、適切な運動や診療、飼い主への返還、譲渡などを支える必要があります。台湾の施設管理規則も、こうした収容中の世話と次の行き先を定めています。
処分の件数と一緒に、施設の混み具合や収容期間、動物がどのように過ごせているかを見る。台湾の事例は、命を守る目標を、日々の生活までつなげて考える手がかりになります。
制度を比べるときに、確かめたい4つのこと
異なる地域の取り組みを読むときは、同じ言葉や数字でも意味が違うことがあります。次の4つを確かめると、制度の特徴と、そこから言えることの範囲を整理できます。
| 確かめること | 読み取るポイント |
|---|---|
| どこで、何に適用されるか | 国・地域・自治体の違い、対象となる動物や年齢、販売・家庭飼育・収容施設の別 |
| どこまで求められるか | 法的な義務か公的な助言か、最低基準か推奨か、例外や経過措置があるか |
| いつから、どう実施されるか | 検討中か施行済みか、移行期間中か、担当する行政や支援の仕組みは何か |
| 動物の暮らしがどう変わったか | 制度が目指すことと、実際の調査・評価で確かめられたことを分ける |
たとえば、講習があることだけで遺棄が減ったとは言えず、外出規制があることだけで猫の事故や野生動物への影響が十分に減ったとも言えません。制度の目的を知ったうえで、その後の変化を確かめる必要があります。
また、飼い主や施設に責任を求める制度では、知識を得る機会、相談先、費用や人員の支えも関わります。ルールの内容と、実行できる条件の両方を見ることが、動物の暮らしに近づくための手がかりになります。
海外の事例から、身近な暮らしを考える
海外の制度を読むことは、家庭での世話を社会全体の仕組みとつなげて考える機会になります。迎えるまでの環境を確かめること、動物に必要な行動や関わりを知ること、地域への影響や保護後の暮らしに目を向けることは、日本でペットと暮らす私たちにも身近な問いです。
興味のある事例を読むときは、何を守る制度なのか、誰が支えるのか、動物の毎日はどう変わるのかを重ねてみてください。制度の名前の先に、一匹ずつの暮らしを思い浮かべられるようになります。
動物福祉という考え方そのものを知りたい方は、動物福祉の基本を整理した記事もあわせてご覧ください。














